視覚障害
[PR]テレビ番組表
今夜の番組チェック

ホーム 視覚障害


はじめに

ここでは視覚に障害のある自分がどうやって留学生活を送ってきたかを書きました。別に留学したからといって、特別変わったことをしたわけではありません。もし自分が日本の大学院に行ったとしても、目に障害がある分、人より努力しなければいけないのには変わりがないから。大事なのは、まず自分がひたすら努力すること。地球上どこにいようと、死ぬほどがんばっている人には、周囲から温かい手が差しのべられるものです。そうすると「この優しさに応えなければいけない」と思い、さらにがんばれる。これは日本にいようがアメリカにいようが変わりはないでしょう。

視覚障害と留学

視覚障害は確かに「障害」であり、さまざまなことを不可能、又は困難にしている。車だって運転できないし、人の顔もろくに見分けられないから通りすがりに話しかけることも難しい。しかし、自分がもし身体のどこにも障害がなかったら、今よりよい生活を送っていたかというと、決してそんなことはないと思う。もし自分に障害がなかったら、今この充実したアメリカでの留学も、まずしていなかっただろう。なぜならこの留学の動機は、目が普通に見えている人も持っていない特別なものを手に入れ活躍する、ということにあるからだ。自分は今まで目が普通に見えている人をうらやましいと思うことが多かった。子供のころは野球やテニスをしている友達をうらやましがったし、大人になれば車を運転している友達をうらやましがった。何も自慢できるものがなかった上に、目も悪かったので、劣等感みたいなものも多少なりとも抱いていた。しかし、今は違う。自分に自信がついた。この自信は当然人がくれるものでも、金で買えるものでもない。自分の努力が報われたときにのみ得られるものだ。今使っている研究の技術は五年後には古くなっていて、誰も使っていないかもしれない。授業で習ったことも五年後にはかなり忘れているだろう。しかし、一度身についた自信は違う。一生ものだ。そしてこの自信は勉強だけでなく、今後私の人生で起こりうる困難を私が乗り越えなければいけないときに大いに役立つだろう。今後は、目の普通に見えている人が、この留学を終えて力を付けのびのびと活躍する私をうらやましがることだろう。

自信がついたのはいいことだが、良くないことも気づいてしまった。それは、目が悪いと何をやるにも人より時間がかかる、ということだ。視力が落ちてからずっと視覚障害者のみを生徒としてとる学校に通っていたため、留学するまでこんなことにも気づかなかったが、なんと自分はトロイことか。広い図書館でジャーナルを探すのも目の前まで行かないと文字が読めないのでうろうろ、インターネットからダウンロードできる論文を探すのもモニターに目を近づけて一行ずつ読む、論文が手に入ってからだって拡大読書器で普通の人よりも時間をかけて読む、データを取るときだって電極がいつもの場所にないとあちこち探し回る。やることすべてに人より時間を要するのだ。留学すると、こういった視覚障害のためにかかる余計な時間のほかに、英語ですべてをやるためにかかる余計な時間がプラスされる。後者のほうは英語の上達とともに短縮されてきているとはいえ、この余計にかかる時間は英語を母国語としている人と比べたら無視できない。「よく勉強している」と言われることがあるが、ただ単に人より時間が必要なためにそう見えるだけで、実際には見かけほど勉強できていないと思う。

しかし目というものは脳に情報を入力するために使う道具にしかすぎない。肝心なのは脳で、幸い脳は鍛えれば鍛えるほど良くなる。だから目が悪い人は、ただ単に何をするにも余計に時間を要するというだけで、目の普通に見えている人よりも優秀になれる可能性が大いにあるのだ。こんな当たり前なことにも留学前にはしっかり理解できていなかったような気がする。たぶん自分が抱いていた劣等感が、このようなポジティブな思考を妨げていたのだろう。

授業

自分のような弱視の場合、何か特別なことを授業中にやってもらうということはまずない。授業で配られる資料も、昔は拡大文字でもらっていたが、大学院ともなると普通の文字の大きさでもらっても多いのに、よりかさばる拡大文字でもらうと、大変なことになるので止めた。それにどうせ拡大読書器で読むので、かえって普通の文字の大きさのほうがよかったりする。

授業中は一番前に座り、単眼鏡で黒板やスライドを見る。他の生徒は最前列にあまり座りたがらないので、自分ひとりで孤独なものだ。留学生活は長いが、いまだに授業を録音して家に帰ってから聞きなおしてノートをとっている。黒板を見るときには単眼鏡を使い(最前列で単眼鏡を使っても、距離と文字の大きさの関係でろくに読めない)、ノートをとるときにはルーペを使って文字を書く、ということは自分には無理だからだ。授業を聞きなおし、大事なところはMDを止めてノートにまとめる、という作業はひたすら時間がかかるが、今までの経験から時間さえかければ好成績が残せることが分かったので、この調子でがんばるつもり。目にも言語にもハンディーのないアメリカ人が授業を録音しているのを見ると、もし自分が録音もせずに悪い成績をとったときに言い訳のしようがないといつも思う。

留学中のテスト

留学中のテストはどうしていたかというと、当然拡大文字で時間延長をお願いしていた。普通文字でもルーペを使えば読めるが、はじめから文字を大きくしてもらっておいたほうが読むスピードが速い。問題を読むのに時間を割いていては、考える時間が削られるので、少しでも速く読むるように拡大文字で明るい窓際に座らせてもらった。こうしていただくには、まず学校が始まる前にstudent disability serviceというオフィスに相談に行く。すると「視覚障害を証明するため、この書類を医者に書いてきてもらって下さい」といわれ、書類を渡された。これを大学病院へ持って行き、診察を受け、書類を記入してもらう。そしてこの書類を再びstudent disability serviceに持っていく。するとそのオフィスで働いている人たちのうちの一人が自分の担当として割り当てられる。ここまでが、一番最初に一度だけやらなければいけないことで、以降は新学期が始まると、この担当の人と話すためにアポをとり、以下に書かれたことを行う。

学期ごとに取る授業の数だけ同じ書類を作成する。その書類には、障害に対して授業中、又はテストでどんな特別な措置が必要かが書かれている。この書類の下のほうにサインする欄があり、そこにあらかじめ自分とstudent disability serviceで働いている担当の人のサインをもらっておく。学期が始まって間もないうちに、授業を教えてくれる担当の教授にこの書類を見せ、自分でも簡単に説明し、最後にサインをしてもらう。この書類は下にカーボンコピーの紙が二枚あり、一枚を自分で保管し、一枚をstudent disability serviceに持って行き、残りの一枚を教授にコピーとして保管していただくという仕組みだ。こうすることによって、自分、授業担当の教授、そしてstudent disability serviceの担当の人が三人みな、同じ条件で同意したという書類が残るわけだ。

留学時に必要なテスト

願書提出時に必要なテストを見ていただいたらわかるが、TOEFLとGREがそれにあたる。ここら辺は時とともに変わりうることだと思うので、自分が受けた2002年当時のことを書きたいと思う。

自分の場合、これら二つのテストを受けたときにはすでにアメリカの大学に留学しており、拡大文字、時間延長などの特別措置を授業のテスト時に受けていた。こういう場合、TOEJLやGREなどの受験願書をstudent disability serviceなどのオフィスに持って行き、「この生徒はうちの学校でテスト時に時間延長と拡大文字を与えられている」ということをそのオフィスで働いている担当の人に書いてもらう。

TOEFLもGREもコンピューター上で行われるので、拡大文字に対しては画面拡大ソフトがインストールされたコンピューターを使わせてくれる。ペーパーの場合、自分の使い慣れたルーペを持参すればいいのだが、コンピューターの場合、画面拡大ソフトは自分の使い慣れたもの(もし使っているのであれば)というわけにはいかないので、少し大変かもしれない。しかし、実際の問題が始まる前にキーボードやマウスの操作、この拡大ソフトの操作の説明が実際にコンピュータの画面上で出来るので、本番の問題を答えるまでには慣れると思う。時間延長に関しては、パソコンにあらかじめ希望した延長時間が設定されているので(1.5倍、2倍など)、問題が始まる前に「残り時間何分」と表示されているところで確認しておけばいいだろう。自分が受けたときは、たぶんマシンのスペックが低かったためだと思うが、リスニングなどで写真が表示され、次の画面に変わるときに前の写真の一部が画面に残っていたりという問題があった(今もそうなのかはまったくわからない)。

補助具

ルーペ
以前はこれを一年中ポケットに入れていた。しかし倍率の高いものはポケットに入るには入るが大きく、その割にどこかに置き忘れることも昔はあった。しかし最大の難点は、ルーペを持つのに片手がふさがることだろう。ルーペを使いながらでは、本を両手で広げて読んだり、片手に定規も持って、反対の手でペンを持って線を引くなどの単純な作業が出来ない。今よく使っているPDAの操作なども片手にデバイスを持って反対の手でスタイラス(ペン)を持って操作するので、ルーペでは無理。

ルーペ付き眼鏡
上記のルーペの代わりに使っているのが、この眼鏡。自分は白内障の手術以来、眼鏡が必需品なのでちょうど良い。ルーペをポケットに入れて持ち歩く必要なし、置き忘れる心配なし、そして両手がフリー、といいこと尽くしだ。唯一の短所は見かけが異様と言うことか。しかしこれだけ機能的だと、そんなことは気にしていられない。

ルーペとルーペつき眼鏡の写真 左がルーペ、右がルーペつき眼鏡。眼鏡の向かって右のレンズに貼り付けてあるのがルーペ。

単眼鏡
近くだが文字が小ささて読めないときに使うルーペに対して、距離が遠くて見えないときに使うのがこれ。今現在一番よく使うのは授業中黒板を見るとき。そのほか駅での乗り換え時に、天井から下がっている案内の文字を読むときにも重宝する。

拡大読書器
単語程度または数行程度ならルーペでもいいが、教科書、論文など大量に読まなければならないときは、拡大読書器を使ったほうが速く読める。ルーペを長時間使うときの問題点は悪い姿勢で読み続けなければならないこと。なぜなら焦点を合わせるために、顔(目)と読んでいるものの距離を短く保たなければいけないから。それに対して拡大読書器では文字をかなり大きく出来るので画面に顔を近づける必要がなく、いい姿勢が維持できる。また倍率がルーペよりも高いので、より小さい文字が読める。アメリカでは研究室と自宅のアパートとに一台ずつ置いてある。

拡大読書器と単眼鏡の写真 拡大読書器とそのテーブルの上に立ててある単眼鏡

拡大鏡(パソコン用ソフト)
パソコンの画面は「特大フォント」を使用すればほとんどの場合、目を近づけて眼鏡についたルーペを使えば読める。しかしたまに字が非常に小さいときがあり、その時はWindowsに標準でインストールされている「拡大鏡」を使う。

ジョーディー
  Enhanced Vision社のHP(英語)
このゴーグルはカメラとディスプレイから成り、前方を向いたカメラのとらえたイメージが目の前のディスプレイに表示される仕組み。ベルトなどにフックでつけられるコントローラで倍率を変更できる。長所はオートフォーカスでピント合わせが要らない、両手がフリーということ。短所は大きいので携帯性がいまいち、手軽さに欠ける(ゴーグルを頭にかける→電源を入れる→倍率を選択する)ということ。初めのうちは面白がって使っていたが、今は単眼鏡ばかり。授業で黒板を見るのに使うにも、机の上のノートは近距離すぎてピントが合わないので、ノートをとる度にいちいちゴーグルを外さないといけないので不便だし、電車乗り換え時などの、「〜行き」といった案内を見るためだけに使うには、準備が大変で、いずれの場合も単眼鏡のほうが便利。うちの大学病院の眼科にあるlow vision rehabilitation and counselingからほぼ全額出たので(20万円以上)購入したが、自分で全額出して購入する価値があるかは不明。
ジョーディーの写真1 右が本体、
左がコントローラー。
ジョーディーの写真2 本体を後ろから。中央の鼻当てとその両側の画面が見れる。

チューチューマウス チューチューマウスと仲間たち

弱視用の補助具ではないが、私にとっては不可欠なものなので、ここで紹介する。

視力が非常に弱いと、パソコン使用にあたって困ることの一つにマウス操作がある。なにが困るかというと、マウスポインタがこの広い画面上のどこにあるのかを探すのに苦労する。目を近づけて見れば見える場合でも、目を近づけると見える範囲が当然狭くなる。だからどこにあるか全く見当もつかないマウスポインタを探すには、隅から隅まで画面をなめるように見なければいけないことになる。かといって、目を遠ざけて画面全体が視野に入るようにすると、今度は視力不足でポインタが見つからない。

WinXPには、「コントロールキーを押すと、ポインタ位置を表示する」というのを選べるが、これ単独ではポインタの回りに表示される円が小さすぎ、はっきり言って(私には)役立たない。あの円が問題なく見えるのであれば、ポインタのみでも問題なく見えそうなものだ。

軌跡を表示するのも、ポインタが動いていれば見やすいが、静止しているポインタには全く効果なし。

頻度の多いマウス操作に閉じる「X」をクリックするというのがあるが、これくらいの視力の弱さになると、これが大変。まずポインタを探さなければいけないし、見つけた後も、そのポインタを移動させて、移動後「X」上にあるかどうか確認するために、目(顔)をその「X」上に移動させなければならない。たいていウィンドウは最大化されているため、右上の隅まで画面に近づけている目を移動させなければならない。

ここで活躍するのがチューチューマウス。Alt+Sjhiftをキーボードで押したときに、閉じる「X」まで飛んでくれるように設定できる。飛んでくれたのを確認するために「チューチュー」と鳴いてくれるようにも出来るが、最近は鳴かないようにしている。音楽を再生していてボリュームを上げていることがあるので、鳴き声がうるさいことがあるから。だから今は「コントロールキーを押すとポインタ位置を表示する」にあらかじめチェックをつけておき、Alt+Shiftで、ウィンドウを閉じる「X」までポインタを飛ばし、その後コントロールキーを押し、ポインタが本当に閉じる「X」上にあることを確認してクリックしている。

シェアウェアだが、試用期間が長いため実際にゆっくりと使ってみて、本当に良いと思ったら送金すればよい。もしマウスポインタを探すのに苦労している視覚障害者がおられたら、ぜひ一度お試しあれ。

奨学金・補助金

障害があるがために、障害者対象の奨学金や補助具を購入ための補助金が得られたりする。今使っている補助具のほとんどがどこかからお金を出してもらったので、自分で買ったものはほとんどない。例えば、自宅にある拡大読書器はpearl visionという眼鏡会社からお金をもらって購入、研究室にあるのはIowa Department for the Blindからの借りもの、ジョーディーは大学病院のlow vision rehabilitation and counselingからお金をもらって購入。

補助金とは別に奨学金も、student disability serviceが提供しているなど、決して豊富ではないが、探せばいくつかある。

仕事

研究室で研究の手伝いをしてお金をもらっているわけだが、当然視覚に問題があると、何らかの工夫が必要となることがある。この場合アドバイザーを通していろいろな人に相談するわけだが、みんな真剣に考えてくれる。ありがたい限りだ。

自分の場合、まず問題となったのはオシロスコープ(電圧計)の画面が小さくて見づらかったこと。これは17インチのコンピュータモニタを接続することで解決。その他は拡大読書器を研究室用に手に入れたくらい。 研究内容によって、何が問題になるかが変わり、必然的にそれに対する工夫も変わる。自分は修士課程と博士課程で研究室を変えたのだが、「自分は目に障害があるからこの研究室よりもあの研究室のほうがいいかも」などと勝手に考えていた。博士課程への進学で面接をした際、そのことを面接官の先生に告げると、「目の障害のために研究活動を制限してはいけない。絶対何か方法があるはずだから、やりたいことをやりなさい」と言われた。同じ大学とはいえ、進学時でゴタゴタしていたので、いつの間にかちょっと弱気になっていた自分に気づく。今でもはっきり覚えているありがたい言葉だ。